都市流出水
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都市部から流出する汚水(以下、都市流出水)。文明化社会と人口増加、それに伴う海の近くに住みたいという人々の願いがもたらした、予期せぬ不幸な結末の一つとして、都市部の人口過密、それにともなう広大な面積の不浸透面、舗装された水を浸透させることのない地面の出現が挙げられます。舗装された路面のせいで、雨水によって運ばれる街中からでた汚染物質は川、湖、海へ効率的に排出されます。長期にわたる乾燥した雨の降らない季節の間であっても、造園のための潅漑用水、洗車に使われた水、歩道や車庫から続く道にホースで流された水、工場廃棄物をふくむ排水などの流出水が絶え間なく流出しています。雨の降らない時期にこうした人為的な流出水がなかった開発以前の状況では、多くの地域で水が地面に浸透し、自然の沿岸湿地が少量の動物の排泄物をろ過して生分解していました。現在の状況を開発以前の状況とくらべてみると、なぜ海が以前より汚れているのか理解できると思います。
監督官庁の都市流出水への対応の例として、次の調査結果は、カリフォルニア州水質資源管理委員会のサンディエゴ地区によって発表され、最近制定された一般廃棄物排出許可をほぼ言葉通り引用したものです。
- 都市流出水とは、汚染物質を含む排水で、州の流域の水質に悪影響を与えるものです。
- 自治体の雨水排水路から流出した都市流出水は、全米で水質汚染の主な原因になっています。都市化と流出水が流出先の水域に与える影響には強い相関関係があります。一般的に、開発が進んだ地域ほど都市流出水が流出先の水域に与える影響は深刻です。
- 都市開発によって、汚染物質の量、排出量、流出水の流出速度は加速します。都市が開発されると、次の二つの重大な変化が起こります。第一に、自然の植物におおわれた浸透性のある地面は、舗装された幹線道路、道路、屋根、駐車場などの水が浸透しない路面へと変わります。自然の植物におおわれた土壌は、雨水を吸収し汚染物質を除去することができるため、非常に効率のよい浄化作用を持っています。舗装された路面やコンクリートは、水を吸収することも、汚染物質を除去することもできません。そのため、土壌の持つ自然な浄化作用は失われてしまいます。第二に、都市開発における人口密度の増加に比例して、雨水排水路に流入する、または直接廃出される車からの排ガス、車のメンテナンスにともなう排出物、都市の下水、殺虫剤、家庭有害廃棄物、ペットの排泄物、そしてゴミの排出量の増加などの、新しい汚染源を生み出します。
- 水質は水が浸透しない路面の割合が増加するにともなって悪化します。開発された都市部からの流出水の排出量と流出速度が増加すれば、下流にある自然水路の浸食の速度も著しく増加します。地域の不浸透性の割合と流出先の水質悪化との間には直接的な相関関係があることが、多くの研究によって立証されています。排水の流出先の河川やその他の流域の生物学的健全性と物理的生息環境の著しい悪化は、自然な地面から不浸透面への変換が、わずか10%でも起こることがわかっています。今日、「不浸透面で覆われた地表の割合%」は、新規開発計画の水質悪化の信頼性のある指標であり、水質悪化予測のために適切な判断材料であると考えられています。
- 都市流出水は人間に健康被害をあたえる危険性があります。都市流出水はバクテリアとウイルスが多く含まれる流出水を沿岸海浜水域に排出し、雨水排水路の近くで泳いだり、サーフィンしたりすることと、人が病気に感染することには明らかに関係があります。このような流出水が原因で地元の海岸が閉鎖されることがたびたび起こっています。都市流出水によって流出先の流域に運ばれた汚染物質は、食物連鎖の輪の中に入ります。捕食者が下等生物を食べることにより生物蓄積がおこり、生物濃縮が生じることになります。このため、DDT、PCB、重金属を含む汚染物質が生物濃縮されています。
- 都市流出水によって流域の有効利用ができなくなってしまいます。汚染物質の排出量増加と雨水排水路からの流出量の増加は汚染物質の濃縮につながり、流出先の水質汚染基準値を超えて、その水域が指定された目的のために有効利用ができなくなる恐れや、生物の生息環境悪化をまねき流域の有効利用ができなくなってしまうことがあります。都市流出水の排出は、浸食によって流出先の流域の物理的生息環境に影響を与える可能性もあります。
- 雨水管理の方法を変える必要があるでしょう。従来の送水中心の方法とは対照的に、より自然な雨水管理方法として、流出水が浸透性のある植物におおわれた地表をゆっくり流れ、ろ過、浸透するような方法に変えていく必要があるでしょう。都市流出水の排出量や最大流量、流出速度、流出水に含まれる汚染物質の量を、自然な水循環を保持し回復することで、そのろ過機能と浸透作用によって大幅に軽減することができます。従来の送水中心の方法からより自然な雨水管理方法に切り替える最大の好機は、土地利用計画と都市計画を策定している過程と、新規開発計画の初期設計をおこなっている時です。
排水路、路面雨水排水溝、そして地下排水管からなる雨水排水路は、主に洪水を防ぐために設計されました。水は重力に従って低い地点、普通は海に向かって流れます。雨水排水路の基本設計方針は、雨水とその他の都市流出水を住宅用地、商用地、工業用地から出来るだけ速く流出させて、小流、河川、および直接海に排出することです。土木技師は、これらのシステムを水のスーパーハイウェイとしてできるだけ効率よく水が排出されるように設計しました。都市流出水は、流出先があなたのお気に入りの海岸であっても、その流出先に排出される以前に汚水処理が施されることはありません。
路面、排水溝、事業用施設、そして芝生や車庫から流出する水には、常に動物の排泄物、殺虫剤、肥料、自動車からの液体漏れ、ブレーキパッドのカスや残留物など、いろいろなゴミが含まれています。そして、その汚濁物とゴミは最終的に海岸に流出します。雨の降らない時期に排水溝に流れている水は都市流出水だと疑ってみて間違いないでしょう。人間が都市とそれにともなうインフラ、そして何マイルも続く舗装道路を完成させる以前には、雨の降らない乾燥期に都市流出水が排出されることはありませんでした。当然、海に汚染物質が流出することもありませんでした。雨天時にも、未開発の土地と沿岸湿地は、自然に流出水を浄化することができていました。現在、排水溝は、ほとんどいつも汚れた水の流れる川のようになってしまいました。
私たちに何ができるでしょうか?一番大切なことは、水道の蛇口を閉じて、無駄な水を使わないようにすることです。芝生に水をやりすぎないようにしましょう。スプリンクラーを調整して舗道にまで水がかからないようにしてください。(水が無駄になるだけで、なにも成長しません)。一般に、ガソリンスタンドの洗車は、排水を貯めて再利用しています。もし、自宅で洗車をするのなら、最低限の水で洗車をすませて排水は舗装されていない場所に流すようにしてください。車のオイル漏れは修理しましょう。ペットの排泄物は持ち帰ってください。芝生に肥料をやりすぎないようにして、殺虫剤と除草剤を使わないようにしましょう。水を大量につかう芝生を育てるのをやめて、海に優しい庭造りを実行することを検討してみてください。ホースで水を流す代わりにほうきを使ってください。ここにある方法を友達にもすすめてみてください。排水路に水が流れ込んでいるのをみつけたら、どこから水が流れているのか探してみてください。もし、水の流出元がわかれば、その家の人にもっと環境に配慮した庭造りを実行するように話してみてください。
都市流出水が原因で引き起こされた水質問題への懸念が高まるに従って、米環境保護庁(Environmental Protection Agency: EPA)、州、および地元の水質監視委員が、より厳格な国家汚染物質排出防止システム(National Pollutant Discharge Elimination System: NPDES)許可を都市と群に発行するようになりました。これらの新許可の発行条件のもとでは、新規開発と再開発の計画過程で都市流出水の量をおさえるための対策強化への審査がより厳しくなっています。私たちの都会での生活様式の様々な側面と流出水の流出源(建設現場、工業用施設、商業用施設、および住居)が考えなおされ、雨水排水路に排出される汚染物質が最小限に抑えられるように、開発計画、デザイン、建設工事に適切な改良がくわえられ、私たちの日々の生活習慣も見直されることになります。あなたにも、住んでいる地域の開発計画過程に関与することで、他の人たちのよい前例となることができます。
訳注:この記事は、サーフライダー・ファウンデーション・USAによってまとめられたものを、サーフライダー・ファウンデーション・ジャパンのボランティアが翻訳したものです。アメリカ合衆国の環境問題、政府機関、法律などに基づいて書かれたもので、日本の現状に基づいて書かれたものではありません。 |